歯周病とは
歯周病とは、歯周病菌が原因で引き起こされる炎症疾患のことです。歯と歯茎の間にある歯周ポケットに歯周病菌がたまることで、周囲の歯肉や歯を支える骨(歯槽骨)が徐々に破壊されていきます。
歯周病は「サイレントキラー」とも呼ばれ、初期段階では痛みなどの自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに進行してしまうという特徴があります。進行すると、歯ぐきから膿が出たり、口臭が強くなったり、最終的には歯がグラグラして抜け落ちてしまうこともあります。
令和4年歯科疾患実態調査(※)によれば、40歳以上の日本人の約半数が歯周病(4mm以上の歯周ポケットを持つ状態)に罹患しているという、身近な疾患です。年齢が上がるにつれて罹患率も高くなり、70代では約60%の方が歯周病を抱えています。
※出典:歯科疾患実態調査結果
歯周病の進行について
歯周病は段階的に進行する疾患で、初期の歯肉炎から重度の歯周炎まで症状が悪化していきます。
初期|歯肉炎
歯肉炎は、歯と歯ぐきの間に2〜3mmのすき間(歯周ポケット)ができる段階です。健康な状態の歯周ポケットの深さは1〜2mmですので、若干の病変が見られる状態です。主に、以下のような症状が認められます。
- 歯ぐきが赤く腫れる
- 歯磨きの時に出血する
- 口臭が気になり始める
軽い症状が見られるものの、痛みを伴わないため見逃しやすい時期です。歯磨き時の出血は「歯周病菌と白血球の戦いの証」と言われており、歯周病の警告サインです。歯肉炎の段階なら適切なケアで回復できるため、定期的に検診を受け、早めにケアを始めましょう。
中期|軽度〜中等度の歯周炎
歯周炎は、歯肉炎の炎症がひどくなり、歯周病菌が歯周組織に侵入した状態です。歯槽骨や歯根膜が破壊され、歯周ポケットが4〜5mmとさらに深くなります。
歯を支える骨にまで炎症がおよんでいる状態となり、歯肉炎の症状に加え、膿を伴うこともあります。この段階まで進むと自己ケアだけでは改善が難しいため、専門的な治療が必要です。
末期|重度の歯周炎
重度の歯周炎は、歯槽骨が半分以上破壊された状態です。歯周ポケットは6mm以上となり、深くなるほど、歯垢や歯石が溜まりやすく悪循環を引き起こします。症状としては、以下が挙げられます。
- 歯がグラグラと動きはじめる
- 噛むと痛みを感じる
- 歯と歯の間に隙間ができる
- 歯が長く見える(歯肉退縮)
- 口臭が強くなる
この段階まで進むと、歯を失うリスクが高いです。重度の歯周病は見た目にも機能的にも問題を引き起こし、QOL(生活の質)を著しく低下させる要因となりますので、できるだけ早く歯科を受診し、歯科医に相談しましょう。
歯周病になりやすい方
歯周病は、だれでもかかる可能性がある疾患です。そのなかでも、リスクが高い方の特徴は以下のとおりです。
- 歯磨きが不十分な方
- 喫煙習慣がある方
- ストレスを抱えている方
- 糖尿病を患っている方
- 口呼吸をしている方
- 歯ぎしりや食いしばりがある方
- 加齢により免疫力が低下している方
- 遺伝的に歯周病になりやすい体質の方
複数のリスク要因が重なると、さらに危険性が高まります。自らのリスクを知り、定期的に歯科を受診することが予防・治療の第一歩となります。
こんな症状はありませんか? 歯周病セルフチェック
以下のポイントをチェックしてみましょう。
- 歯茎が赤く腫れている・ブヨブヨしている
- 歯磨き時に歯茎から出血する
- 歯と歯ぐきの境目に白っぽい膿がある
- 不快な口臭・臭いがある
- 朝起きた時の口臭が強い
- 歯がグラついている
- 噛み合わせが変わった感じがする
- 以前より歯が長く見える(歯肉退縮)
- 歯と歯の間に隙間が開いてきた
上記のような気になる症状があれば、歯科医院への受診をおすすめします。
歯周病の原因
歯周病は生活習慣や全身状態などさまざまな要素が複雑に絡み合って発症・進行する病気です。主な原因である細菌感染をはじめ、それぞれの要因を詳しく見ていきましょう。
細菌性プラーク(バイオフィルム)の蓄積
歯周病の主な原因は、歯の表面に形成される細菌の集合体である細菌性プラークです。このプラークは粘着性が強く、うがいだけでは落とすことができません。1mgのプラークなかには約10億個もの細菌が存在し、バイオフィルムという特殊な構造を形成しています。このバイオフィルム構造により、細菌は外部からの攻撃に対して防御力を持ち、抗菌薬なども効きにくくなります。プラークを放置すると歯石へと変化し、さらに除去が困難になるため、歯ブラシなどによる物理的な除去が必要不可欠です。
不適切な歯磨き習慣
不適切な歯磨き習慣もプラークと同様に主な原因となります。歯磨きの時間が短かったり(2分未満)、歯ブラシの当て方や力加減が不適切だったりすると、プラークの除去効果が低下します。歯間部の清掃不足によるプラークの蓄積は、細菌の餌となり歯周病を引き起こす原因となるためです。特に夜間は唾液量が減少するため、就寝前の歯磨きを怠ると細菌が増殖しやすくなります。「磨いている」と自分では思っていても、正しい方法でなければ歯周病予防には不十分となるので、注意が必要です。
喫煙による影響
タバコに含まれる有害物質は歯ぐきの血流を悪化させ、免疫機能の低下を引き起こすため、歯周病菌への抵抗力が弱くなります。喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病リスクが2〜8倍も高くなるといわれています。また、喫煙者は血流の悪さから歯への栄養が届きにくい状態であり、歯周病治療の効果が出にくく、回復も遅れる傾向があります。喫煙は歯周病の「加速装置」のような役割を果たし、予防も治療も困難にしてしまうのです。
ストレスと免疫力の低下
万病のもとともいわれるストレスは、歯周病にも関係します。過度のストレスは免疫機能を低下させ、歯周病菌への抵抗力を弱めます。ストレスホルモンは、体のなかで起きている炎症(腫れや赤みなど)を抑えるコルチゾールのバランスを崩してしまいます。このコルチゾールのバランスが崩れると、歯茎の炎症がひどくなったり、治りにくくなったりする可能性があるのです。また、過度のストレスがかかっている状況では口腔ケアも疎かになりやすく、無意識の歯ぎしりや食いしばりといったストレス反応が歯周組織に負担をかけるのも1つの要因です。
遺伝的要因
通常、歯周病そのものが遺伝するということはありません。しかし、歯周病にかかりやすい「体質」の遺伝によって、罹患リスクを高めることはあります。同じような口腔ケアをしていても、歯周病になりやすい人とそうでない人がいるのは、この遺伝による免疫応答の個人差が影響していると考えられます。そのため、家族に歯周病患者が多い場合は、自分も歯周病のリスクが高いことを認識し、より注意深い口腔ケアが必要です。
糖尿病などの全身疾患
歯周病の原因として、糖尿病をはじめとする全身疾患も見逃せません。特に糖尿病とは深い関係があり、糖尿病のある人は歯周病のリスクが約3倍に高まるとされています。高血糖状態が続くことで免疫力が低下し、細菌への抵抗力が弱まることも、歯周病を引き起こす一因です。また、骨粗しょう症や免疫系の疾患、一部の薬の副作用なども、歯ぐきの健康に悪影響を及ぼすことがあります。とくに糖尿病と歯周病は、お互いに悪影響を与え合う「負の連鎖」の関係にあるため、日頃からの体調管理と口腔ケアの両面からの対策が重要です。
当院の歯周病の治療について
歯周病は早期発見・早期治療が大切な疾患です。当院では、歯肉炎から重度の歯周炎まで、患者様一人ひとりの状態に合わせた治療プランをご提案いたします。
まず治療の基本となるのは、歯周病菌を減らすためのブラッシング指導と歯石除去です。専用の機器を使用し、歯石や歯周ポケット内の汚れを徹底的に除去します。症状が進行している場合には、より深い部分の歯石を取り除くルートプレーニングや、必要に応じて外科治療も行っています。
歯周病でお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。治療後も定期的なメンテナンスを受けることで再発を防ぎ、健康な歯を長く維持できるようサポートいたします。
当院で受けられる治療内容
プラークコントロール・ブラッシングの指導
プラークコントロールとは、歯の表面に付着する細菌の塊(歯垢・プラーク)を取り除く方法のことです。歯周病のすべての段階(歯肉炎、軽度〜中等度の歯周炎、重度の歯周炎)において必要な基本治療となります。当院のブラッシング指導では、患者様一人ひとりの口腔内の状態や「磨き癖」に合わせ、以下のように正しい歯磨きの方法をお伝えします。
- 歯ブラシの選び方
- 歯ブラシの正しい持ち方・当て方・動かし方
- 歯間ブラシの使い方
- デンタルフロスの使い方 など
歯肉炎の段階では、正しいブラッシングを習得するだけで症状が改善することもあります。重度の歯周炎でも、治療の効果を高め、再発を防ぐために欠かせません。そのため、患者様ご自身が毎日のブラッシングで歯垢を適切に除去できるようになることがもっとも重要です。
プラーク・歯石除去(スケーリング)
スケーリングは、専用の器具を使って歯の表面に付着した歯垢(プラーク)や歯石を除去する治療です。歯ブラシでは取り除けない固くなった歯石を、歯科医師や歯科衛生士が取り除きます。振動で歯石を砕くことができる超音波スケーラーなどの専用の器具を使用して行います。除去治療時間は1回あたり30分程度で、複数回にわけて行うことが多いです。このスケーリングは歯肉炎から中等度の歯周炎まで対応できる治療法です。歯肉炎や軽度の歯周炎では、スケーリングとプラークコントロールを組み合わせることで改善が期待できます。
ルートプレーニング
ルートプレーニングは、歯と歯ぐきの間にできた「歯周ポケット」の奥深くに溜まった歯石を除去し、歯の根の表面を滑らかにする治療です。歯周ポケットが深くなると、通常のスケーリングでは届かない部分に歯石が付着します。この治療では、専用の器具を使って歯周ポケット内の歯石を取り除くとともに、細菌の毒素が染み込んだ歯根表面の汚染された部分も除去可能です。歯根表面を滑らかにすることで、歯ぐきが再び歯にくっつきやすくなり、歯周ポケットが浅くなります。ルートプレーニングは主に中等度以上の歯周炎に対して行われる治療です。歯周ポケットが4mm以上に深くなった場合に必要となり、場合によっては局所麻酔を使用することもあります。
外科的治療
外科的治療は、歯ぐきを切開して直接歯根面の歯石や汚れを除去する治療法です。歯周ポケットが深い場合や、スケーリング・ルートプレーニングなどの基本治療で改善が見られない場合に検討されます。代表的な外科的治療としては「フラップ手術」が挙げられます。歯ぐきを一時的にめくり、直接目で見ながら歯根に付着した歯石や不良肉芽を除去し、必要に応じて歯槽骨の形を整えたあと、歯ぐきを元の位置に戻す手術です。そのほかの方法を含め、外科的治療は主に重度の歯周炎に対して行われます。歯周ポケットが7mm以上と深く、歯を支える骨が大きく失われている場合には、骨の再生を促す「歯周組織再生療法」を併用することもあります。
メインテナンス
メインテナンスとは、歯周病の治療が一段落したあとに定期的に行う専門的なケアのことです。歯周病は一度治療しても、日常のケアが不十分だと再発しやすい病気です。メインテナンスでは、歯科医師や歯科衛生士による専門的なクリーニング(PMTC)、歯周ポケットの深さの測定、歯ぐきの状態チェック、必要に応じたブラッシング指導などを行います。一般的に、頻度は3〜6か月に1回程度です。
メインテナンスは歯周病のすべての段階(歯肉炎、軽度〜中等度の歯周炎、重度の歯周炎)の治療後に行う予防ケアです。中等度以上の歯周炎を経験された方は、再発リスクが高いことから、より定期的なメインテナンスが重要となります。
歯周病検診
歯周病は初期には自覚症状が少ないことから、定期的な検診で早期発見・早期治療が望ましい疾患です。症状がなくても年に1〜2回、リスクが高い人(喫煙者、糖尿病患者など)はより頻繁な検診をおすすめします。
当院の定期検診では、以下を実施します。
- 歯周ポケットの深さ測定(プロービング検査)
- 歯ぐきの出血や腫れのチェック
- 歯の動揺度検査
- 歯石や歯垢の付着状況確認
場合によっては、レントゲン検査で骨の状態を確認することもあります。検診費用は、治療費に比べれば安価に抑えられます。検診は、歯周病予防のための投資と考え、定期的に受けることをおすすめします。
よくある質問
予防方法はありますか?
歯周病の予防方法は、以下のとおりです。
- 正しい歯磨き技術を身につける
- デンタルフロスや歯間ブラシを活用する
- 定期的な歯科検診を受ける
- 禁煙と生活習慣の改善
- バランスの良い食生活を心がける
生活習慣の改善は、歯周病予防の基本です。予防は治療よりも簡単で費用も少なくて済みますし、一度失った歯周組織は完全には戻らないことを踏まえても重要です。
虫歯と歯周病はどっちが怖いですか?
どちらも怖い病気ですが、歯周病のほうがより深刻な影響をおよぼす可能性があります。虫歯は主に歯の一部を破壊しますが、歯周病は歯を支える骨まで溶かしてしまい、最終的に歯の喪失につながります。また歯周病は全身疾患との関連も指摘されており、糖尿病や心疾患、早産などのリスク因子となりかねません。
隣の歯にもうつりますか?
歯周病は隣の歯にも広がります。歯周病は細菌感染症であり、歯と歯肉の間の歯周ポケットを通じて細菌が移動するからです。一部の歯に発生した歯周病が適切に治療されないと、隣接する歯にも徐々に広がっていきます。歯間部の清掃が不十分だと、細菌が繁殖しやすく、感染が拡大するリスクも高まります。
10〜20代でも歯周病になりますか?
10〜20代でも歯周病になります。調査結果では10代の14.3%、20代の26.6%が4mm以上の歯周ポケットを持つ歯周炎に罹患しています。歯肉炎(歯肉出血)は10代で37.6%、20代で45.0%と高い割合で見られます。若年層では主に歯肉炎が多く、適切なケアがないと歯周炎へ進行することもあるでしょう。
30〜50代でも歯周病になりますか?
30〜50代は歯周病の罹患率が急増する年代です。30代で33.4%、40代で39.5%、50代で46.5%が歯周炎に罹患しています。40代では歯肉炎が51.7%ともっとも高く、50代では軽度〜中等度の歯周炎が38.0%、重度の歯周炎が8.5%まで増加するのです。この年代は仕事や育児のストレスも影響し、歯周病の進行が早くなることも考えられます。
60代以降でも歯周病になりますか?
60代以降は歯周病の罹患率がもっとも高い年代です。60代で51.4%、70代で58.2%が歯周炎に罹患しており、重度の歯周炎が60代で14.3%、70代で19.7%、80代以上で23.5%と大きく増加します。高齢になるほど重症化する傾向があり、歯の喪失リスクも高まります。定期的な歯科検診と専門的なケアが重要な年代です。
妊娠中でも治療は受けられますか?
はい、妊娠中でも歯周病治療は受けられます。むしろ、妊娠中はホルモンバランスの変化により「妊娠性歯肉炎」が起こりやすく、歯周病が悪化しやすい期間です。妊娠中の歯周病は早産や低体重児出産のリスク因子になるという研究結果もあります。
安定期(妊娠4〜8か月頃)が治療に適しており、つわりの強い時期やお産に近い時期は避けるのが一般的です。必ず妊娠中であることを歯科医師に伝え、産婦人科医との連携のもとで安全に治療を受けましょう。
歯周病になった時のサインは?
歯周病になったときのサインには以下のようなものがあります。
- 歯磨き時の出血
- 歯ぐきが赤く腫れる、ブヨブヨする
- 口臭が気になりはじめる
- 朝起きたときに口の中がネバネバする
歯周病の初期サインは「小さな変化」として現れることが多く、痛みを伴わないために見逃されやすいです。早期発見・治療を行うためにも、少しでも気になる症状があれば歯科の受診をおすすめします。
歯周病はどうすれば治りますか?
初期の段階では、自宅での適切なケアで改善が見られます。症状が進行してからは、歯科医院での専門的治療(歯石除去、ルートプレーニングなど)を受けることが必要です。ご自宅では、正しい歯磨き方法の習得と実践、歯間ブラシやフロスの活用、生活習慣の改善(禁煙、ストレス管理など)なども有効です。歯周病は「完治」というより「コントロール」する病気ですので、治療後も定期的なメインテナンスが必須です。